「あなたが好きです」
祈りをこめてもういちど言った。
同時にそっと、やさしい指先が頬に触れた。
「……おかしい、ですか?」
「おかしくないよ」
「ほんとですか……?」
答えるかわりに微笑みをくれる。
「つきあおうか」
玉砕して泣きながら帰るところまでシュミレートしていたから、びっくりしたというより、なにを言われたのかしばらく理解が及ばなかった。
「な、に……を」
「俺だってなんとも思ってない女の子を家に連れて帰ったりしないよ」
それは、あれだ、つまり俊明さんも、わたしのことを……
という解釈でいいの?
「かの、か……かのじょ、にしてくれるんですか……?」
「俺でよければ」
こらえていたものが決壊して、ぐいぐいと心の外側に押し出されていくのがわかる。
形にできないそれは姿を涙にかえ、やがてわたしの頬をびしゃびしゃに濡らした。
6歳年下の小娘の涙に、優しい年上の男の人は笑った。
「うう……好きです……」
「うん、わかったよ」
まだ濡れたままの前髪をかき上げられる。
すっぴんなうえ、涙でビチャビチャの顔面はきっと驚くほどにブスだろうな。
あわてて涙を拭った。
鼻水をずるりとすする。
「……キス、してほしいです」
「なに?」
「ちゃんと実感したいです。両想いだって、証が……ほしいです」
彼はちょっと驚いたように目を見開き、それから困ったような顔をすると、いいよ、と短く答えた。



