「そんなに優しくてかっこいいなんてずるい」
分厚いレンズのむこうの瞳が驚いたように揺れた。
「こうやっていつも、女の子をおうちに連れこんで、優しくして、好きにさせてるんですか?」
「俺はそんなことできるようなやつじゃないよ」
「うそ! だってこんなに優しくてかっこいいのに女の子が好きにならないわけないもん!」
おでこにグーを当てて彼がくすくす笑う。
なんだか本気でツボに入っているみたいでなかなか止まらない。
やがて、ようやく呼吸を整えた彼がゆっくりと顔を上げた。
まだちょっとだけ笑ったままだ。
「そう言う杏鈴ちゃんもダメだよ、こうやって簡単にひとり暮らしの男の家についてきて、そんな軽率に、男が喜びそうなこと言ったりしたら」
「べつに……簡単でも、軽率でもないです」
「けっこう簡単だし軽率だったよ。相手が俺でよかったけど」
なにそれ。
なにが、『よかった』というの?
「それは今夜、わたしになにもしないつもりだってことですか……?」
どうしてそうやって、遠い場所にいるみたいな顔をして笑うわけ。
わたしのこと、まだまだ子どもだって言っているみたいに。
自分はもう、わたしとは違う大人だって言っているみたいに。
「あなたは、からかってるだけかもしれないけど。わたしのことなんか通りすがりのガキくらいにしか思ってないかもしれないけど」
くやしい。くるしい。せつない。
「わたしは簡単に男の人とデートしません。家についてきたのだってはじめてだし、こんなに男の人のことかっこいいって思ったことも、どきどきしたこともなくて……」
ああ、ちょっと待って。わたし、いまから、ちょっと、なにを、言おうと。



