「大丈夫?」
はっとして顔を上げる。
膝に顔をうずめて精神統一しているうちにかなり時間が経っていたようで、心の準備などまったくできていないまま、彼が帰ってきてしまったみたい。
「具合悪い?」
「い、いえっ、いいえ、ちがうんです」
「のぼせちゃった?」
しゃがみこんで顔を覗きこんでくる瞳は、とても心配してくれている。
だけど、湯上がりの濡れ髪に、ふいうちの眼鏡なんて聞いておりません!
細めのレンズと太い黒縁が、こんなにも反則なくらい似合うなんて。
「目……わるいの、知らなかったです」
「え? あ、うん、ド近視。眼鏡外すとなんにもできないよ。普段はコンタクトしてるけど」
「……もう、むり……」
もごもごしゃべるわたしに彼が困ったように首をかしげる。
なに、と聞き返しながら、そっと、ぐっと、距離が近づいた。
「ずるい」
なんかもう、3周くらいまわって腹が立ってきた。



