けっこうぶかぶかなスウェットはやっぱり彼のにおいがした。


せっけんみたいなにおい。

シンプルなのに、とてもやさしい香り。


「お風呂、ありがとうございました」


くらくらしそうなのをこらえてリビングに戻ると、おかえり、と優しいトーンが言った。


「思ったより大きかったな、ごめん」


こっちにやって来た彼が濡れた前髪をひょいと持ち上げる。


すっぴん、メイクしているときよりちょっと幼くなるからあまり見られたくないよ。

これ以上ガキだと思われたくない。


「ドライヤー持ってくるよ」


決して笑みを崩さない彼は、またあっさりわたしに触れるのをやめた。

無視できないくらいに胸がぎゅうっと苦しくなる。


「冷蔵庫の水とか勝手に飲んでいいよ。すぐ戻ってくるからゆっくりしてて。眠かったら先に寝てもいいし」


わたしにドライヤーを手渡し、そう言い残すと、彼はすぐにバスルームへ消えてしまった。


だけどもはや髪を乾かすどころではないし、お言葉に甘えて冷蔵庫の水を飲んでいる場合でもない。

眠ってしまうなんてもってのほか!


ソファの下で小さく体操座りしたまま、呼吸を整えて彼の帰りを待った。

自分で自分を抱きしめていないと、なんかもう心臓がもたない。


あとどれくらいで戻ってくるかな。

そのあとわたしはどうなるのかな。


のんきにシュークリームなんて食べられる状態じゃない気がするのだけど。