「あの……お誕生日、おめでとうございました」

「うん、ありがとう」

「せっかくの記念日なのにわたしがもらっちゃってごめんなさい」


きゅっと、優しい印象の目がさらに優しく細くなる。


「むしろ、かなりいい思いしてる気がするけど」


もういちど、ありがとう、と言いながら。

撫でるみたいに、なぞるみたいに、人差し指の甲のほうで前髪に触れられた。


わたしのこと、どんなふうに思ってこうしてくれているのかな。

同じどきどきを共有してくれているかな。

きっとぜんぜんどきどきなんてしてくれていないだろうな。


わかるよ。
子ども扱いされていることくらい。

それもわたしのどきどきなんかすっかりお見通しで、半分くらいはおちょくられているんだろう。


それでもこうしておうちに連れてきてくれたことに、なにか意味はあるんだって自惚れてもいいのかな。


突然、ふたりのあいだに場違いな電子音がピロリンと落ちた。

どうやらお風呂が溜まったらしい。

ウチとおんなじ音、こんなささいすぎることにも、なぜかうれしくなってしまう。


「ちょっと待ってて」

「あ……」


あっさり前髪から離れていった指先を、どうにも名残惜しく思う。

おでこがじんじんする。