「きょう25歳になった12月22日生まれの山羊座。血液型はA型。結婚はこれまで一度もしたことがないし、もちろん隠し子もいないよ」

「……それ、ぜんぶ。ほんとう、ですか?」

「聞かれるまで自分から話したりしないけど、こう見えて嘘はつかない」


体ごと持っていかれそうなほどの深い安堵だった。


結婚していなくてよかった。

奥さんも子どももいなくてよかった。


そう、不倫に巻きこまれなくて……ううん、ちがくて。


この人に大切な誰かがいなかったことを、わたしはいま、とてもよかったと思っているんだ。


「彼女はいますか……?」


勢いあまって訊ねていた。


祈るような気持ちだった。

ぎゅっと目をつぶる。


だけどどれだけ待っても答えをくれなくて、しびれを切らしてまぶたを持ち上げると、彼は微笑んだままわたしを見つめていた。


いつもの、優しい、だけじゃない。

ごくたまに、ほんの一瞬だけ見せる、年上の男の人っぽい、ちょっといじわるな微笑み。


「知りたい? 俺のことが」


呼吸をするのさえ忘れそうになる。


「は……い」

「本当に素直なんだな」


おかしそうにくすくす笑いながら、彼はそのまま運転席へ戻っていってしまった。


キス、されちゃうかと思った。

たぶん、わたしいま……キス、されたかった。