「……なんで、言ってくれなかったんですか?」

「べつに隠してたわけじゃないよ。こんなことわざわざ言う必要もないかなと思って」

「言う必要あるに決まってるじゃないですか! そもそもなんでこんな大切な日を候補に挙げてきたんですかっ」

「ふたりの休みがたまたま合う日だっただけだろ。俺の誕生日なんてたいしたことでもないよ」


なんなの。

なんなの、この人。

いったいなんなの。


「わたしのことはぜんぶお見通しって感じのくせに、そっちはいつも、なんにも、教えてくれないですね」


ダメ、
このままじゃみっともなく泣いてしまう。


「きょうが誕生日だってことも言わないし。わたしの家が遠回りなのかそうじゃないのかも教えてくれないし。どうしてそんなに、自分のことしゃべってくれないんですか? そんなにわたしに知られるのが嫌ですか? 本当は……本当は、結婚してるんでしょ? 奥さんと子どもがいるんでしょ? わたしのこと、おバカなガキだと思ってからかってるんでしょうっ……?」


ぼろぼろ泣いているうちに車が完全に停止した。

いつのまにかわたしのマンションに到着している。


ああ、タイミング最悪。


きっとこのまま助手席からぽいっと降ろされてしまうんだろうな。

ゲームオーバー、残念でした、
って感じに。


「奥さんも子どももいないよ」


だけど彼はそうしないで、あまりにもあっさり予想外の答え合わせをしてのけたのだった。

おまけにものすごく驚いた顔をしている。