『杏鈴ちゃん、こんにちは。瀬名季沙です。きょうはたくさんお話してくれて、お写真まで撮ってくれてありがとう。
せっかく誕生日デートだったと思うのにおじゃまムシしちゃってごめんね。どうしてもお礼を伝えたくて、いきなりDMしちゃってるのもごめんね。届いてるのかなあ。
忙しいと思うからお返事は大丈夫です。これからも応援してますっ』
本来ならこちらがお礼とお詫びをしなくちゃいけないのに、わざわざこんな言葉をくれるなんて。
本当に優しくて、いい人なんだな。
なんだかあったかい気持ちで返事の文章を打ち込みながら、ふっと手が止まった。
「『誕生日デート』……?」
いったいなんのことだろう。
わたしの誕生日は6月11日だからまだまだ先だし、季沙さん、なにか勘違いしているのかな?
そこまで考えてからやっと気が付いた。
こんなにも簡単なことに、実に約10秒もかかってしまった。
「もしかして……きょう、誕生日ですか……?」
左折したついでにこっちを向いた運転手と目が合う。
彼はいつもと何ら変わりない微笑みを浮かべ、うん、ととても短い返事をした。
その顔を見ていたら、ぶちん、となにかが頭のなかで切れる音がした。



