夜空の下を静かに走る車の揺れがあまりに心地よくて、助手席でいつのまにか眠ってしまっていた。
高速を降りて最初の信号待ちで、ふにゃりと目が覚める。
知っているような街並みを寝ぼけながら眺めていると、景色がゆるゆると走り出し、自分がいま車の中にいることを思い出した。
手に握っていたスマホをいつもの癖でタップする。
たちまち、煌々とした光が車内を照らす。
「起きた?」
右側から、とても優しい声。
数分前から起きてはいたけど、たったいまその声を聞いて、完全に目が覚めたと思う。
「あ……すみません、わたし」
「疲れた?」
運転してもらっておきながら肯定するなどという失礼はできない。
ふるふる首を横に振ると、まだ寝てていいよ、とハンドルを握っていない左手に前髪をかき上げられた。
いやらしさの欠片も感じない、こういう触れ方、きっとこの人にしかできない気がする。
それでもどうにもどきどきしながら前髪を押さえつつ、今度こそ眠ってしまわないようにスマホをさわった。
メッセージが何件か来ている。
雪夜といけちゃんにそれぞれ返事をして、あとはてきとうにスタンプを送っておいた。
フォトストにも相変わらずたくさんのDMが届いている。
ひとつひとつチェックしている途中に、ある名前を見つけて本当にびっくりした。
季沙さんだ!



