「そんな時です。 羽衣さんを自由にしてくれる人が現れたのは……秀一さん、あなたが彼女の心を開いてくれたんです。

……この街から二人で出ると知ったときは嬉しかった。 あんな男の手に渡るくらいなら羽衣さんにはどんな小さな幸せを掴んで欲しかった。

始発の電車を見送った時は安堵という感情と不安はありましたが、笑う彼女を見ると大丈夫だと思えたんです」


白浜さんのお父さんを見る目に未だに怒りの感情が残っていた


「八年前でしたっけ……羽衣さんがこの街に戻ってきた時は衝撃でした。 幸せになっているんじゃないかと思っていたのに、私に言った一言が"ごめんなさい、わたしの帰る場所はここしかないから"と泣いていました。

実はあなたと羽衣さんがこの町を出た後、婚約は白紙、援助もなしということであっという間に水瀬家はつぶれました。 あの両親がいまどこにいるかは未だにわかっていません」


タイミングがあったことが幸いでしたと、白浜さんは呟いている


「私は思いました。 羽衣さんが傷つかないように次こそはこの身を犠牲にしてでも守らなければ……だってあまりにも儚い存在だから、これ以上彼女の心が壊れないようにって。

ですが戻ってきた羽衣さんは以前の面影を残してはいませんでした。 日を重ねる毎に次第に明るさを取り戻し前向きになっておりました」

話が変わる毎に悲しみから怒り、今は穏やかに表情が変わっていった