電車は動き始めていて車内は揺れている


他の一つの車両にそれぞれ家族連れや個人が乗っている状況だった


「おや、随分と可愛らしい女性だ。 里帰りかい?」


「え? あ、まぁ、そんな所です」


途中で老夫婦に声をかけられ、驚いた私はどもった返事をしてしまった


「旅の記念だ。 これを持っていきなさい」


「…………あ、ありがとうございます」


そして、何故か煎餅とミカンを持たされる


「もう、おじいさん。 さっきもあげたんじゃありませんか?」


「いやいやおばあさん。 あれは若い男性だったろう」


「そうねぇ。 若いのに紳士的だったわ。 昔のおじいさん見たいで!」


「これ、人が見ている前でよさないか」


……と、仲のよいやり取りを見て私は次の車両に進んだ


「……」


入ってすぐの右側の窓際に星夜は座っていた


設置台には煎餅とミカンがおいてある


……なんとなく予想はしていたが、紳士的な若い男性は星夜の事だった