――土曜日
駅までは歩いて二十分とかからない
「翼ちゃん、無理はしないでね。 星夜、しっかりね」
と、早くに家を出ようとしていた俺達を両親は見送ってくれた
「いってきます」と言い、家を出る
駅までの道のりの間お互いに無言のままでいた
何か話すべきだろうけど、俺も翼も今じゃないと思ったからだろうか
だが、手は家を出たときから繋いだままでいる
時折、"大丈夫、俺は側にいる"と伝えるように強く握る
それに返すように翼も握り返していた
何度も繰り返す内に駅が目の前に見えてきた
翼の父親は入口の前で立っていた
腕時計を見ながら待っている
「……」
少し離れた距離から翼は俺から手を離して父親に近づいた
「……翼」
足音に気付いて頭を上げた父親は一瞬だけ嬉しそうに笑ったがすぐに表情が曇り、俯く
翼は立ち止まり、口を開いた
「……お母さんに会いに行くだけよ」
その言葉を聞いた父親は再度俯いた
「――……ありがとう」
翼の父親は肩を震わせ、静かに泣いていた
side end.