「……本、当に今更ね」


私に対しての後悔があったとは思わなかった


返事がいらないのは私がお母さんに会いたいかそうでないかの選択を踏まえているから


会いたいとすれば必ずしもお父さんともう一度顔合わせしなければならなくなる


逆に会いたくなければお父さんに会わなくてすむけれどお母さんとは二度と会えなくなる


"お母さん"を通して行くか行かないかを私に託したんだ


……ズルい


お母さんの名前を出して私に手紙を渡してくるなんて


私だって会いたいよ


会いたいけど……怖い


だって、お母さんは"何も言わずに家からいなくなった"のだから


桃色の封筒を裏返した[水瀬羽衣]の文字を見る


何年も見ていなかったけれど間違いない、お母さんの字だ


字を見ただけで泣きそうになった


『──翼』


笑顔で抱き締めてくれたお母さんの姿が浮かび上がる


──お母さんはお父さんに対して何を書いたの?


封筒の中身を見ればお母さんの気持ちがわかりそうな気がした


震える手で四つ折りの手紙を取り出しゆっくりと広げる