それからしばらくしてから。
ガタガタと揺れる馬車の窓から顔を覗かせて、街を見る。
家から馬車で約20分。
そこはいつも見ている自然に溢れた郊外とは別の世界。
あらたな本との出会いを楽しみに、私の心は踊っていました。
「ドロシー、そんなに身を乗り出したらあぶな……」
危ないよ、と兄が言い終わる前に、馬車が急ブレーキを踏み、がたんと揺れて。
「わ……!」
馬車の揺れにより、危うく窓から落っこちそうになった私の肩を掴んで、兄が慌てて支えてくれました。
「ほら、言わんこっちゃない」
「すいません……」
ふ、と息をついた兄は、未だ止まっている馬車を降りて、何があったか確認しに行ってしまいました。
私は降りるなと言われたので、窓から外を見ます。
馬車の進行方向に、長いローブを着た人が3人。
よく見れば、そのうちの1人は小さな子供を抱えていて。
兄がその人たちに近づき、なにか話し始めます。
顔はローブに隠され、ここからでは見えないけれど、背格好や兄の身長と比べると、どうやら彼らは男性のようですが。
それから少し会話した後、兄は呆れながら戻ってらっしゃいます。
兄が戻る時、3人のうちの1人が、兄に手を振っていたのは、見間違いじゃないですよね。
……………知り合いでしょうか。
兄が馬車に乗り込み、腰を下ろすと同時に馬車が走り出し。
「お知り合いですか?」
私が兄の方を見て尋ねると、少し面倒くさそうな顔をして。
「なんというか……2人は仕事の同僚。1人は……上司、かな?」
かな?ってなんですか。
私が眉を潜めると、クスクスと笑った彼は。
「まぁ、ドロシーもそのうち会うことになるかもね」
と、私の頭を撫でました。
そのうち、会うかも?
兄様の同僚さんと、上司さん。
なんだか、少し興味があります。
兄様は私に仕事の話はしてくれないので。
そのうち会えるのなら、職場での兄を聞いてみましょう。



