きっかけはあの日、2年前の春。
私が15歳の春でした。
15歳と言えば結婚適齢期真っ盛りといいますか、とにかく周りの同世代の女の子はみんな結婚を求めて大忙しです。
やれ茶会だの、やれ舞踏会だの。
そんな中私は結婚なんてまだいいやと思っていたのですが、両親も慌てることがないので周りが焦ってました。
まぁそれは置いておきましょう。
あの日もいつも通り私は読書を勤しんでいました。
すると、書庫の扉がノックされ、オズワルド兄様が顔を覗かせた。
「ドロシー?」
肩につかないくらいに切られた黒髪に、少し長い前髪。
その前髪から覗く灰色の瞳は、シルバーの眼鏡に縁取られている。
「兄様……どうかなさいましたか?」
「これから王都へ仕事に行くんだけど………一緒に行くかい?」
「!!!」
ばっと読んでいた本を閉じ、立ち上がって兄様に近づいて。
「い、いきます………!!」
興奮止まらぬ私の様子に、兄はクスクス笑いながら頭をなでるのです。
「なら、待っててあげるから本を片付けておいで」
ニコッと笑って諭されました。
兄様が置いてくことはないとわかっておるけれど、慌てて本を棚に戻します。
今日読む本を全て出していたから、なかなかの数です。
横着気質な私は、10何冊ある本を一気に重ねて持とうとして、バランスを崩してボタボタと落としてしまいました。
それをまた慌てて拾おうと腰をかがめると、手に持っていたものも落としてしまいました。
そんな私の様子に、兄様は、仕方ないなぁというふうに手伝ってくださいます。
お礼を言うと、くしゃくしゃになった髪の毛を整えてくださいました。
オズワルド兄様はとてもお優しいです。
そうですね……あの時は……。
将来結婚するとなると、やっぱり兄様みたいに優しい方がいいなと思ってました。