正面の真ん中の列だった。
あんなとこもう何回も見ていたはずなのに、全然見つけられなかった。

だけど千夏はちゃんとそこにいた。
この発表を見に来てくれていたんだ!





そう思った瞬間、僕の全身からどっと汗が吹き出した。

やっぱりこれも練習の成果なのか、心臓が突然バクバクいいだしても、ソロパートを弾く手がくるうことはなかった。




だけど千夏を見つけた途端、告白から逃げることはできないっていう実感が急にわいてきて、どうしようもないくらいにどきどきしてきてしまったのだ。



さっきまでちっとも暑いと思わなかった舞台の照明が、急にいやに暑く感じた。 


わかった。

本当は僕は千夏がここに来ていなくて、告白せずに済むことを望んでいたんだ。

今さらになって気づいた。




栗本さんの歌声が体育館に響いている。
曲は二番に入った。


千夏はこのあと、頼斗に告白しようとしている。
だから千夏もきっと、今の僕のようにどきどきしているに違いない。

しかも、玉砕覚悟の僕と違って千夏のは本気だ。
ほんとに付き合うか付き合わないかが、かかってるんだから。


僕はふと思った。

僕は今ここで、みんなの前で千夏に思いを伝えようとしている。
でも、そんなことなんてしたら、僕を振った後に頼斗に告白する千夏は、告白することを後ろめたくなるんじゃないだろうか。


でも僕は千夏を悪者にはしたくない。

自分の自己満足のためなんかに、千夏を悪者にするなんてごめんだ。

じゃあ僕はどうすればいいんだろう?
告白なんかしなけりゃいいのか?

でも、そしたら、、、



そんなことをぐるぐると考えているうちに、涼がドラムを盛大に鳴らして、曲はついに終わってしまった。


客席から拍手がわき上がる代わりに舞台はしんと静まり返る。

僕の後ろから背中に集まってくる、智己たちの視線。
振り返らなくても、痛いほど感じることができた。