騒々しい場所から逃れようとしている男の姿は、電話越しからでも伝わってくる。


それまでの間を、半分ほどの長さになったマルボロを深く吸い込み、煙を宙に泳がせて待った。


「どうも、お待たせしました。」


俺が煙を吐き終えた電話越しでは、周りの音が消え去っていた。


「他人の金で呑む酒は美味いか?」


泳がせた煙を切り、マルボロの穂先を灰皿に押し付けた。


「へへへ、これも仕事ですからねぇ。」


意地汚そうな笑い声に、薄くなりかけている辰巳の頭頂部が思い浮かんだ。