さっきまでの緊張感がピークだと思ってたけど、今はそれ以上だ。


書類で氷藤社長の顔が隠れているのが、唯一の救いだと思える。


乳白色の店内とは違って、黒を基調としたシンプルな社長室。


微かに届く煙草の匂いと、オリエンタルスパイシーの匂いが混じり合っている。


デスクからソファセットに目を移している時、ガラス製の灰皿から伸びている煙が揺らいだ。


書類を無造作にデスクに放った社長が、煙草に手を伸ばすと同時に此方を向く。


慌てて視線を社長室の床に落とした。


「ご苦労。」