運転手の新崎に見送られ、マンションへと帰ってきたのは一時間ほど前。


L字型のソファに座り、静かにロックグラスを傾けていた。


ソファに合わせた直角三角形のガラステーブルの上には、灰皿で燻らせているマルボロの煙に晒されながら、マッカランのヴィンテージボトルが並んでいる。


喉の内壁を焼やしてしまう熱と、鼻腔から抜けていく芳醇な香りを堪能し、一人酔いしれていた。


東の空は白み始め、新たな一日の幕を開けようとしているが、暗幕のような遮光カーテンが光を遮っているこのリビングは、現世から隔離されているようにも感じる。


だが、それが心地良い。


尤も、自らがこの空間を作り上げたのだから、望んで現世から隔離したとも言える。


普段は呑む事も少ないのだが、見えてきたビジョンに乾杯を交わす為の前祝いといった所だった。