薄い壁にガタがきてるドア、今日の朝まで住んでいたアパートは、人が住んでいるという生活臭があった。


でも此処では、それが除菌されているみたいに感じる。


例えるなら、無菌の温室。


鍵を開けたドアの前でもう一つ大きな溜め息を吐いてから、重いドアを開いた。


詰み上がっている段ボールを横目に、リビングへと進んでいく。


広いリビングの真ん中にちょこんと置かれたテーブルを見て、なんだか申し訳なく思う。


段ボールの中身を出す気にはならず、テーブルの上にママの香りが詰まった小瓶を置いて、コルクを開く。


鼻先に届く鈴蘭の香りが心地よく、気付けばテーブルに身体を預けて眠っていた。


ママ、私の生活は一日にして大きく変わっちゃったよ…。