氷の華

「お金の心配なら要らないそうです。私も知らされてなかったのですが、元よりそのつもりで多めの金額を渡されていたようですし。」


人が折角言葉には出さなかったのに。


「そんなの、それこそ哀れみや同情じゃないですか!それとも、氷藤社長と二人で貧乏人をからかって楽しんでるんですか?」


怒りを抑えきれなかったというのも有るけど、わざと怒りを前面に押し出した。


私の怒りの熱に当てられて、少しでも本性を見せれば良いんだ。


「先ほども言おうとしたんですが、私は社長の命令に従っているだけです。ですので、私に何を言っても糠に釘、暖簾に腕押しですよ。携帯ならお貸ししますから、社長に直接言ってみますか?」


電話越しでとはいえ、あの氷その物のような氷藤社長を、私が言い負かせるだろうか。


違う店に行く云々は、借金の移行手続きを終えてしまった今じゃ、もう言い出す事が出来ない。


それを見越していたかのように、切り札を無くして言葉を発せない私を眺めた柿沢店長は、車を路肩から車道へと戻した。


やっぱりこの人は、氷の人形だと私に再認識させながら…。