振り返れば、片手にお気に入りのぬいぐるみを抱えて
眠たげな目をこすっている琉羽がドアの前に立っていた。
「……なんでもない。おはよ琉羽」
「おはよ……琉衣ふぁあ」
「……」
……僕は……。
「……琉衣?どうしたの、電話なんか持って」
「……別に、なんでもないよ」
琉羽は琉衣の言葉に首をかしげた。
「ほんとに?なんでもない風には見えないよ?
だって琉衣すごい怖い顔してる」
「だから!なんでもないってば!」
「……」
琉羽がびくっと体を震わせる。
……怖がらせるつもりはなかったのに。
「…………そ、そうだ、お母さん達何時に帰ってくるっけ?」
気を使ったのか、琉羽は気まずそうに話しかけてきた。
「……さぁね」
「お、お土産なんだろーなー……
おばあちゃんの特製ジャムかな?」
「……知らない」
「僕、ジャムよりもおばあちゃんのチェリーパイがいいな」
「……そう」
「ねぇねぇ琉衣、お母さんとお父さん早く帰ってこないかなぁ
今度こそ、ちゃんとお留守番してたご褒美に
お父さんにマリカやらせてもらおうっと!」
「……」
「……」
しん、と静まった。
琉羽はまた話だそうとしたが、
琉衣の顔を見てきゅっと口を閉ざした。
「……琉羽」
琉衣は、自分の片割れの名前を呼んだ。
「な、なに?……琉衣」
びくり、と琉羽はおそるおそる琉衣の目を見た。
琉衣の目はゆらりゆらりと妖しい色に揺れていた。
「琉羽は、僕の双子のお姉ちゃんだよね」
「!」
琉衣は、琉羽を姉と呼んだ。
普段2人はどっちが姉か兄かいつも言い争っていた。
その、琉羽を、琉衣は、姉と呼んだ。
「そうだよ!僕は琉衣のお姉ちゃんだよ!」
「……僕のこと、好きだよね」
「もちろん!お姉ちゃんだからね!」
「……僕も琉羽が好きだよ」
「知ってるよ!琉衣には僕がいるし、
僕にはいつだって琉衣がいるんだから!」
「僕達は、ずっとずっと一緒だよね?」
「う、うん。なんでそんなこと聞くの?」
「琉羽、僕はね琉羽さえ居てくれればそれでいいんだ」
「……うん?僕も、琉衣が居てくれたら嬉しいよ?」
その言葉に、琉衣は、笑った。

