ヒメの叫びとほぼ同時に
男はガラスの破片を拾い
玄関に向かって
走って行ってしまった。
追い掛けるにも
自分が発した声の振動で
体中に激痛が走り
動く事が出来ない。
そうしている間に
玄関では大きな物音がしている。
「副社長が危ない…」
壁に手を付きながら
なんとか立ち上がり
ガラスの破片を踏みながら
玄関へと歩みを進めると
床に倒れているストーカー男と
それを取り押さえている
シキの姿を見つけた。
「え…
ヒ…メちゃん…?」
あまりに無残な姿だったのだろう。
シキは血だらけのヒメを見るなり
目を丸くし言葉を失っている。
しかし急に
顔色が変わり
「テメェ…
このコに何してくれたんだよッッ」
鬼の形相で男を睨みつけ
顔面をフルボッコにし始めた。
普段軽い雰囲気のシキの
見た事のない姿。
「やめて…
落ち着いて、副社長…」
シキに対する恐怖よりも先に
“ストーカー男と同じ事をしてほしくない”
その気持ちの方が上回った。
ヒメの声にシキの手が止まり
男は顔面を腫らしながら
気を失っている。
「ごめん…ヒメちゃん。
完全に我を失ってたわ。
今、ナツメに連絡するから
もう少し待ってて」
ヒメはコクンと頷き
静かにその場に座り込んだ。


