木陰に隠れながら
ヒメのほうをジッと見ていたのは
最近隣に引っ越してきた
妙に気味の悪いあの男。



受付職員の言うように
マスクで顔の半分が隠れていて
ハッキリとは見えないが
最初に男を見たときと同様
ボサボサの髪とスウェット。


それで
すぐにピンときた。


そして同時に
ストーカーの正体も
この男だと
証拠もないのに確信した。



“会社にバレた”



何より恐怖だった。



もし
ナツメの身に何かあったらと思うと
鳥肌が立つ。



「なんとかしなきゃな…」



解決の糸口なんて
何1つ思いつかないが
このままではいけない。



必死に頭をフル回転させ
今後の事を考えていた。



「神崎?」



突然、後ろから声を掛けられ
一瞬にして現実に戻された。



「わッ!」


「どうした?
 そんなに驚いて。
 ったく、秘書室にもいないし捜した。
 もう出発する時間」



腕時計を意識させながら
少し強めの口調で促され
ヒメも時計を確認しハッとした。


出掛ける時間の
3分前だ。



「ごめん!
 行ける準備は出来てる!
 すぐ行く!」



とにかく今は仕事に専念するため
男の存在を記憶から消すよう努力した。