それなのに今日は
一緒に来て飲んでいる。
それも“ヒメのため”に?
「深い意味はないな。
ただ、まぁ
神崎の様子が最近おかしかったから。
疲れてるならと思っただけだ」
どうやら本当に
“ヒメのため”だった。
日付が変わる頃
ヒメとナツメは
ジルヴァラで食事を堪能したあと
社長専用車で自宅へと送ってもらった。
「今日はありがとう。
まさか社長と飲み行って
送ってもらえるとは思わなかったよ」
「そうだろうな。
俺もこんな事したのは初めてだ」
「…そうなんだ」
『やっぱり初めてか』と
なんとなく納得し驚かなかった。
今日のナツメの好意は特別で
普段誰にも見せない
“ブラック社長”なりの
優しさなんだろうと
逆に少し嬉しく思えた。
ナツメと別れ
今日は気分が良くなったのか
鼻歌交じりで階段を上がる。
「今日も結構飲んだなぁ。
あの店行くと
つい飲んじゃうんだよね」
見知らぬ男の件から少し解放され
何事もなく1日を終わろうとしていたのに…
現実はそんなに甘くなかった。
ふと感じた
人の気配。


