男は特に何をするワケでもなく
収納庫の前でボーッと立ちすくんでいる。
「あのー…
そこ、退いてもらえます?」
とりあえず邪魔だから
退いてもらおうと声を掛けると
何も言わずにこちらを振り返った男。
(怖ッ)
昨日は見えなかった男の顔が
今日はしっかりと見る事が出来たが
瞬間に感じた“恐怖”
だらしなく生えている無精ヒゲに
真っ黒髪は傷みが強く
前髪は見に入るんじゃないかと思うくらい長い。
さらに後ろ髪は
寝癖なのか跳ねていた。
何一言喋らない男に
違和感を抱きつつ
終始視線を感じながらも
急いでゴミを捨て
男に軽く会釈し
その場を立ち去った。
―――会社、社長室。
「システム変更が多いなぁ…。
明日から会議も増えるな。
悪いけど仕事が多くなるよ。
覚悟して」
「了解」
基本的に日中はナツメに同伴し
終わったら秘書室で資料作成。
その間にも電話・来客対応
やる事はそれなりに多い。
「今日はこの時間かぁ。
日付が変わらないだけマシか」
出来上がった書類を印刷しながら
腕時計の23時の表示に
もう驚く事もなくなっていた。


