「それよりナツメ
 確か、今日だよね?」



ヒメから離れたシキは
カレンダーを見ながら呟くと
ナツメの表情は一変。

先ほどとは違い
真剣な目つきへと変わり
どことなく哀しい目をしている。


“今日”が何の日か
ヒメは知らずにいた。



「悪い、神崎…
 午後は予定が入ってないと思うから
 早退する」


「え…」



ナツメが“早退”するなんて
ほとんどレアに近い。

風邪を引いたって
無理やりにでも来ようとする
仕事人間なのに。



でも確かに
今日のスケジュールは
午後は何も入れていない。


面談も会議も
何1つ入れるなと言われていたのだ。



言っていたように
ナツメは早くに退社。



「社長…
 今日は何かあるの?」



給湯室でお茶を入れながら
外を眺めながら煙草を吸うシキに
それとなく聞いてみた。



「んー…
 俺から言っていいかは
 よくわかんないんだけどねー。
 今日は“ある人”の命日なんだわ」


「え…命日?」


「そ。アイツにとって
 大切な人の。」



テーブルに肘を付き
あいかわらず
ボーッと外を眺めたまま
煙草を吹かせ
何かを考えているようにも
思えた。