「初めまして新藤社長。
遅くなってしまい、すみません。
ちょっと彼女と話をしていて」
「いや、それはいいけど…
何かあったんですか?」
「いえ
彼女と知り合いだったので…」
そんな2人の会話を他所に
ヒメは終始無言で
青ざめていた。
それに気付いたナツメ。
「神崎、あとはいいから
部屋に戻れ」
「え…」
「聞いてたな?
戻りな」
「…はい」
強制的に促され
ヒメは部屋へと戻り
ナツメは佐伯から
何があったか聞かず
仕事の話題へ。
自然の流れで
大人の対応をした。
**
歩きながらも
ヒメの中でグルグルまわる
“姉の存在”
名前も声も
そして思い出も。
その1つ1つが
明らかに蘇ってくる。
同時にもう1つ
絡まる鎖が解け始める―――
「お…母さん…」
大切な事を忘れていて
それを思い出さないといけないと
理解はしているから
ヒメは携帯を取り出すと
“ある人”に電話を掛けた。
「ねぇ…教えて。
お父さん」
電話の相手は
何も答えず
何も話さず
“大丈夫”とだけ
何度も呟いている。
“知らない方が幸せ”だと。
まるでそれが
正しい応えかのように―――


