恋をする、その先に…


『あんな事が起こるまでは…』


そう言うと
佐伯の表情は一変。
悲しそうに
寂しそうに
暗い影を落とした。


“それ以上は聞きたくない”と
脳が拒絶している。


それなのに…



「まさか失うなんて
 思ってもみなかった…。
 本当に残念…」



佐伯の言葉1つ1つが
イヤでも耳に入ってくる。



「大切なアタシの親友だよ…
 “神崎ニナ”は」


「お…姉ちゃん…」



記憶の奥深くに
ずっと思い出さないように
永遠という名で封印していた
“姉の存在”



「ヒメちゃん?」



一点を見つめ
硬直したままのヒメに
様子がおかしいと
違和感を感じた佐伯が
声を掛けるも反応を示さない。


1つの記憶の扉が開き
そこで絡まっている鎖が1つ
外れてしまった。

“自分に姉がいた”という記憶が―――



イヤでも
その続きを思い出そうとしてしまう。
そしてそれを拒む自分もいる。
その葛藤と戦っていた。



「神崎?」



後ろからナツメの声がし
現実から離れ気味だったヒメが
少しだけ引き戻された。



「しゃ…ちょう」


「どうした?
 遅いから心配した…」



そう言いながら
ヒメと向かい合わせにいた
佐伯と目が合い挨拶を交わす。