「夢物語って感じ?」

あれから数日。圭ちゃんはあの日の出来事を自分事のように友達に語ってる。それも“夢物語”という言葉にして。

あの夜の事を全部吐かされたあたしは最後の方は少し省いて、あの夜あった出来事と例の“約束”の話をしたら、あたし以上に盛り上がった圭ちゃんが「めっちゃすごいやん!ヤバイやん!てか、夢みたいな話やな!!」と騒いでくれた。

先の見えん奇跡のような約束は口にしてしまえば本当に消えてしまいそうで圭ちゃんにも言えんかった。それに二人だけの約束にすることで、あの夢のような出来事が現実味を帯びてる気がして安易に口にしたくなかった。

あの日のことを語るのは圭ちゃんだけで、あたしからは何を聞かれても笑ってかわすだけ。

「でもさ、夢物語って言ってしもたら、ほんまに夢の中の話になってしもて現実じゃなかったんちゃうかなって思うよな」
「確かに~!!目が覚めたら夢かよ?!みたいな。でも、そんなん奇跡やでなー」
「ほんまに。それでも信じたいのが乙女心なんやけどなー」

圭ちゃんと他の友達はほんまに夢の話を語ってるみたいに腕を組んで話してる。本当に夢の話みたいで信憑性がないけど。

それでも信じたい。あたしも信じてたい。あれは夢じゃなかったって信じたい。
何もかも消えてしまった中で唯一夢じゃなかったって思えるのはあのポケットに入ってたレシート。あれが無ければ絶対夢やったって、ほんまに夢物語にしてた。あれがあったから現実なんやって思えたし、約束も期待してみようと思えた。

もし、あと何年か先に約束した通りに記念歌が作られて、ライブで手を振ってくれて、もしあの日のように再び出会えることが出来たなら、あたしはこの日をどういう形で思い出にするんだろう、と考えた。

随分厚かましいのは承知の上やけど、それもちょっとした乙女心で夢心地なあたしの優越感。
でもやっぱり。

「夢物語かな」

そう呟いたあたしの頭をポンポンと叩く圭ちゃんの表情は優しかった。あたしの複雑なこの感情をわかってるよ、って言ってくれてるような気がして楽になれた。

夢のように儚く、全く現実味のない一夜やったけど、あたしの中では人生で最高の一瞬やった。
ありえんくても、奇跡でも、なんでもいい。ただこのレシートが物語ってる。

あたしはこのレシートを一生大切にしていくやろうし、この出来事を一生忘れんと思う。あの約束が守られんくても、あたしは懲りずに飽きずにライブに参加するやろうし、期待もするんやと思う。

将来、あたしに子供ができて、思い出話を語る日が来たら、未来の旦那様との昔話の次にこの日の話をするんやろうと思う。

それはそう、本当に『夢物語』のように語るんやろうと思う。