キャーという歓声。
真っ暗で何も見えない中で動く人影に反応するファン。

男も女も関係なく発せられる熱い声。
これから始まるショーに興奮を抑えきれないファン達が思わず声を出す。

「すごいですよね…」

隣で陽夏ちゃんが呟く。

「インディーズの頃から知ってるんで、今のような光景がすごく夢みたいなんです」

陽夏ちゃんは昔を思い出すように小さく話す。

「京ちゃんが言ってた最初の夢は“ライブハウスをファンでいっぱいにすること”でした。それは今でも変ってません」

陽夏ちゃんは話しながら瞳に涙を浮かべる。

「ようやく京ちゃんの夢が叶ったんです」

自分のことのように涙を流す陽夏ちゃんにタオルを差し出すと「ありがとう」と涙を拭いた。

きっと、あたしが知らん苦労を知ってるから言えるんやと思う。
あたしも多少は聞いてるけど、見たわけじゃないし、理解したくてもできひんことの方が多い。

特に京平はメンバーの中でも一番熱くて真剣に考えてる男やから、それを見てきた陽夏ちゃんにとっては嬉しすぎることなんやと思う。

ライトがフロア内に広がり、演奏の最中に陽夏ちゃんに気付いた京平が怒らず愛おしそうに笑ったのはそれを一番感じてるのが京平やからやと思う。

京平の気持ちを全て表に出すのが陽夏ちゃんなんやと思う。
なんでこんな感極まった感じになってんのかと言うと、高成たちのバンドが結成して、今日で8年が経つからだ。

なんで8年?と思うだろうけど、これには色々理由があるらしくて、それを今日のMCで言うとか言うてた。
あたしも陽夏ちゃんにも言うてない重大発表があるとかで、いつもは袖で見てるあたし達もこうしてフロアに立ってる。

順調に曲も進んで、やっとMCの時間。
あたしも陽夏ちゃんも何があるんやろう?と首を傾げて待ってた。

関係者の方の気遣いで椅子を用意してくれてて、それに座ってた陽夏ちゃんもこのときは立って聞く体勢に入ってた。

ドキドキ、緊張する。
陽夏ちゃんも緊張のせいか、手をぎゅっと握ってきたから、あたしも握り返した。

《みんな、盛り上がってるかー!!》

お決まりの切り出しに歓声が舞う。

《俺たちも一年ぶりのツアーで、かなり上がってます》

高成の言葉一つ一つにファンが反応してくれる。
気持ちいいんだろうな、と思うのと、あたしにもあんな頃があったな、と懐かしさが湧いてきた。

あの頃は高成と結婚するなるなんて考えてなかったし、想像できんかった。
世の中というのは恐ろしいもんやとつくづく思う。

《えー、今回はですね。ファンのみんなに重大発表があります!》

ファンからは単純に「何ー?」とか不安を感じて「ヤダー!」とか、盛り上げるのに指笛の音が聞こえる。
あたし達はそんな中で二人で顔を見合わせた。

《えー、驚かないでください》

さらに歓声は続く。
高成はあたしを、京平は陽夏ちゃんを見て、笑う。

《誠に勝手で申し訳ないですが、僕達、一年間の育児休暇を取ります!》

シーン、と盛り下がったハウス内。
話を知ってる関係者の方から聞こえる苦笑の声。
あたしと陽夏ちゃんはポカン、と口を開けたまま。

《えっと…?俺、タイミング間違えた?》

高成が焦ったように言うとファンの女の子達が「嫌だ!」とか「結婚してたの?!」とか次々と質問を投げかける。
男の子達は「頑張れー!」と声援をくれてる。

高成と京平はあたしと陽夏ちゃんの表情を見て互いに顔を見合わせ笑った。

悟さんは手を叩いて笑ってるし、涼介は俯いたままだ。
てか、涼介はどうすんの?
そんな考えるヒマなく、高成の言葉は続く。

《みんなには言ってなかったんだけど、俺ら、あーっと、涼介以外は全員結婚して子供もいます》

女の子の「嫌―!」という声と涙交じりの声が聞こえる。

《で、俺も最近というか半年前に子供が生まれまして。こんな仕事だし、奥さんにも迷惑かけるから今流行りの育休を取って育児に専念しようと思ってます。ついでに京平の所も今奥さん妊娠中だからちょうどいいなってなったんです》

あたしと陽夏ちゃんは手を握り合ったまま、進む話を黙って聞いてた。

ステージでは互いの旦那が育休取って“一年間活動休止宣言”してる。

その状況を突然ファンの前で公開されて、信じられると思う?