ライブは約2時間半で終え、今回のツアーでの公演が幕を閉じた。

「涼?あんた、さっきから機嫌悪くない?」
「別にぃ」

なんなの、あんたは!と、あたしの態度に少し毒付く圭ちゃん。
確かにあたしが悪い。勝手に嫉妬して、勝手にイライラして、圭ちゃんに迷惑かけてる。わかってるけど、なんっか落ち着かん。

「さっきの前にいた女の子のことなんやろ?」

圭ちゃんには、なんでもお見通しか。

「まぁ、そうかも」

あたしの俯いた顔を見た圭ちゃんは深いため息をはいた。

「あのさ、いくら4年前に一夜を共にしたっていったって、今は4年も経ってるし。いくらなんでも今の涼の感情はおかしいって」
「いっ、一夜を共にしたって!!」
「言い方はなんでもええんよ」

うぁ、目つき、超怖い。
自覚があるだけに何も言えない。

「なんなん?4年越しで恋でも芽生えた?」

・・・恋?

「まさか。なんでわざわざ4年も?恋するならその時にしてるっつぅの」
「ならええんよ。でも、涼には驚かされるばっかりやからな。“ない”とは肯定できん」
「ないっつうの」

あたしの返事を無視して圭ちゃんはあたしの2歩前を歩き始めた。

まさか、いまさら恋なんて。
ありえん、ありえん。
ちょっと入り込みすぎた熱烈ファンの気持ちになっただけ。それ以上なんて求めてないし、求めようと思ったこともない。

目があったってだけで泣けるわけでもないし、全然普通のファン。
でも、そうやって考えていることが、自分に言い聞かせているみたいで違和感を感じるのも、事実。

なんか考えれば考えるほど、心臓バクバクしてくる。
・・・まさか。
まさか、本気で高成に恋してんの?
好きってこと?
さらに考えれば考えるほど、心臓の早さは尋常じゃなくなる。

「いや、違う。絶対違う。ありえん」
「なに独り言言ってんの?」

また圭ちゃんに呆れた顔をされてため息をはかれてしまう。
確かに普通の人間が考える思考じゃない。
この気持ちはただの気の迷いだと思い直して、圭ちゃんの隣へ駆け寄った。

「あ、あの!」

あたしと圭ちゃんが同時に後ろを振り向くと高校生くらいの女の子2人が話しかけてきた。

「あ、あの!駅に行きたいんですけど、道がわからなくて・・・」

話しかけてきた女の子たちはさっきライブハウスで見かけた子。話しかけてきた子は下を向いてて、もう1人の子は時計を気にしてた。

「家、遠いの?」
「はい。もう時間がなくて」
「じゃあ、あたし駅まで送ったげる」
「え、涼?!」
「大丈夫!!あ、あたしらと乗る線違うからって言ってもそこやし、圭ちゃん先に送っていってもいい?」

女の子達は「は、はい!」と遠慮がちに言ってくれた。見えている先の入口まで一緒に行き、圭ちゃんを見送る。

「圭ちゃん、1人で大丈夫?」
「大丈夫やって!それより、こっから10分はあるで?あんた1人の方が危ないってば!!」
「大丈夫!圭ちゃんみたく可愛くないし。ナンパされる心配は無用!それに迷ってんやもん。確かに、ここ複雑やし。大丈夫、大丈夫!」

圭ちゃんは「ほんっまに」とため息をついて、「何かあったら大声出すんやで!」と言って地下鉄に入っていった。あたしは走って戻り、2人を連れて駅に向かって歩いた。
さすがにこの時間は誰も通らなくて、あたしらの声だけが響いた。

「時間、いける?」
「あ、もう少し大丈夫です」

答えてくれたのは、髪が長くて細くて目がたれていて全身で“女の子”を表しているような子だった。

「ここから遠いんですか?」
「少し歩く。早かったら5分で着くよ」
「ミサは足遅いから、10分はかかりそう」

話しかけてきた少しボーイッシュな女の子は物怖じしない気の強そうな子で、隣で歩く子とは正反対だった。
そういえば、顔がよく似てる。まさか、姉妹とか?タイプは正反対だけど、顔のパーツとか、仕草、話し方がよく似てる。

「あの、もしかして姉妹?」
「そう、双子。よく気付いたね」

気の強そうな子が答えてくれた。その子の目つきが、なんか怖い。
V系ファッションの友達が一人もおらんあたしは、つり目のメイクに黒と赤を基調にした服は少し敬遠してしまう。

「そ、そうなんや。どっちがお姉さん?」
「あ、わ、わた」
「ミサ」
「ミキ・・・」

可愛らしい方のミサさんがどもっている間に間髪いれずに答えた。そうなのか、目つきが怖いけど、それはお姉さんを守るためなのか、とちょっと納得してしまう。

「ミサさんがお姉さんか。全然タイプちゃうけど、仲良しって伝わってくる」

二人共顔を見合わせて、一人は恥ずかしそうに、一人はツンデレっぽく照れていた。

「あ、着いたよ。ここで大丈夫?」

それから今日のライブの話や情報収集の方法とかの話を色々聞いて教えてもらってあっという間の道のりだった。
振り返ると2人は手を繋いでいた。あたしが女っていっても、確かに知らない女の人について行くのは怖かったんだろう。

「ここからは気を付けて帰ってね」

二人は頭を下げて振り返らずに歩いて行った。そして、あたしは今来た道をまた戻る。

「可愛かったなぁ・・・それで、帰りに1番近いのあそこしかないんよなぁ」

夜道に一人で思わず独り言も出てしまう。
日が変わるまで、あと1時間弱。終電については全く心配してないけど、この道は人が多すぎる。しかも、あたしみたいな普通の人間じゃなくて、ホストみたいなお兄さんと、脚が細くてやたらと露出度高めの服を着ている綺麗なお姉さんがたくさんいる。

店は閉まってるのにキラキラと輝いていて、あたしが通るには場違いな気がして、その間を通るのがすごく嫌。

―――さて、選択の時です。

A.今、来た道は人だかりが出来てるが、ある程度街頭もあり暗くはなく難なく駅にたどり着く。

B.人だかりの手前の脇道に入ると、駅までの道のりは短縮されるが街頭が少なく、見た感じ危なそう。でも、人だかりの間は通らんくていいし暗いだけで距離も短縮される。

あたしは選択を迫られる。
その脇道まで信号があと2つある。ちょうど信号が赤になり、立ち止まって考える。

Aは一瞬で終わるけど、Bは5分程暗がりの道を歩かんとあかん。道は知ってるし迷うことはない。

どうしよう。
どうしよう。
信号が変わってまう。

う゛ぅ~~~~っ!
人生何事も冒険せんと!
あたしは2つ目の信号を渡らず左に曲がり、その先にある道を右に曲がって歩く。