今、俺は青山家の玄関前で立ってる。
インターフォンを押せば涼がドアを開けて「いらっしゃい」と笑って迎えてくれるやろう。
合鍵を持ってるから勝手に入ることも出来るけど、今日はナリがおるからそれは出来ん。

インターフォンに手を伸ばし…かけて、深い息を吐く。

実は柄にも無く緊張してる。
今日は涼の出産祝いということで宮本家、谷口家、中塚家が集まって昼から集まってる。
そして独り身の俺は仕事が朝からあって夕方からの参加で、冒頭に戻る。

話戻して、なんで緊張してるんかっていうのは、俺自身にもよくわかれへんねんけど、なんでか緊張してる。
深呼吸をして心を落ち着かせようとしたとき、ガチャリと玄関が開いた。

「やっぱり!もうすぐ来る頃やと思ってん。仕事お疲れ、中入って」

ドアが開いた家の奥からは子供の声が聞こえる。
そして、俺の疲れを癒してくれる笑顔が目の前にある。

「ん?どうしたん?あー、うるさい?疲れた体には酷な場所かも」

苦笑する涼は玄関のドアを大きく開けて俺に入るよう促す。
心地よい緊張感で騒がしい青山家に入った。

「今みんなで晩御飯考えてたとこで、今日はいっぱいおるからバーベキューしようか!って言うてんの。これから買い物行くんやけど、お酒はビールでいい?お肉はやっぱりハラミ?」

付き合いが長い分、勝手知ったる仲ではあるけどここまで来ると苦笑するしかない。
ナリの好みと同じくらい俺の好みを知ってる涼に俺が心を許さんわけがない。
ここまで来たら一種の依存ちゃうかって思う自分に呆れる。

「あ、りょうくん!」
「おう、杏。元気か?」
「げんきー!」

谷口家第一子の杏が俺に気付いて飛びついてくる。
ちょっと前まではカタコトみたいに喋ってたのに今ではいっちょ前に生意気に喋りよる。
子供の成長が早いってことをつくづく思い知らされる。

「どうだった?」

杏の相手をしてると頭上から降ってきた声の主に視線を向ける。

「ちょろい。一発OKで終わらせてきた」

調子に乗るな、と苦笑したのは中塚さん。
俺らが活動し始めた頃から実はむっちゃ世話になってる人がこの人。
この人を目標にするヤツも少なくない。

俺は苦笑で返して、杏を抱き上げて人だかりの反対側にあるキッチンの傍にある椅子に腰掛けた。

「アイツら俺の登場に反応しよれへん」

そう呟くとキッチンに立ってた涼がこっちに振り向き、俺の顔を見て苦笑するだけ。

他人の子がなんぼほど可愛いねん!と言いたいけど、実際見てへんから何とも言えん。
ていうか、そんなん涼を目の前にして口に出せるわけがないけど。

「広いリビングも大人が集まると狭いな」
「確かにあの人だかりやとね。でも全員集まってくれて嬉しいよ」

首に巻きつく杏の相手をしながら視線を後ろに向けるとナズが抱いてる子供をサラと京平が見てる。
杏が産まれた頃のことを思い出してるんかもしれん。

サラは二人目を妊娠してて大きなったお腹をさすりながら優しい顔で笑ってるし、京平はそんなサラを見て微笑んでる。

サラの傍におる時だけ優しい顔をする京平の顔を見ていると俺らには見せん貴重な表情に目がいく。
それに気付いた京平が俺を睨んだけど、鼻で笑ってやった。

「で、ナリは?」
「外の倉庫にバーベキューセット置いてるんやけど、それを探しに行ってる」

どうやらナリはさっそく準備に取り掛かってるようで、俺だけでも手伝いに行ったろうと杏を抱いたまま席を立とうとしたらナズに抱かれてる子供が泣き出した。