最初は遊びのつもりやったのに、思った以上に気合うし、会ったら惚気は聞かされるし。
愚痴を聞かされる時もあって、それはそれで「よしよし」とかしてやるのが俺で・・・なんか、よぉわからんくなってきた。

「聞いてんの?それとも、無視してんの?」

声色の変ったことに気付いて、ハッと顔を上げるとテーブルに肘付いて睨まれてた。

「体調悪い?ここ来るの嫌やった?」
「違うから」

遮ったものの、やっぱり睨まれたまま。
俺の長時間のトリップで機嫌を損ねたらしい。

「とりあえず、行儀悪いから肘付くのやめろ」

そう言うと、さらに一睨みされて、机から下ろした。

「気遣うなって言うけど、気遣ってんのは涼介やろ?」
「は?」

俯きながら唐突に話し始めるから、何の話をしてるんや?と思った。
それでも話は続く。

「だって、帰省のたびに声かけてくれるんは高成の話をしてくれるためやろ?バンドの事も“ナリから聞いてるやろ”って他のメンバーのこと全然話してくれへんし。高成のことはもちろん知りたいけど、そんなん気になったら聞けるし、高成はあたしが聞く前に教えてくれるし。だからあたしが聞きたいのは悟さんや涼介の話やのに全然話してくれへんし。高成に聞いてもいいけど、聞いたら絶対怒られそうで聞けんし」

何が言いたいのか全然わからん。

結局は惚気か?
この俺に惚気てんのか?
で、最終的には聞きたいのはバンドの話かい!みたいな。
俺の話だけとちゃうんかい!みたいな。
いや、別に俺の話を聞いて欲しいわけとちゃうけど。

確かにナリに俺らの話を聞いたら怒るわな。
悟の話は身内やからまだしも、俺なんか言うたら、ただのバンドメンバーてだけ。
その俺のことを一番仲良くしてるとはいえ、ナリに根掘り葉掘り聞くのは確かに嫉妬の嵐なんやろう。
わからんこともないけどな、あのナリ相手やったら。

「難儀な男を彼氏にしたもんやな」

無意識に口にして、顔を上げたコイツにヤバッと思ったら、眉を下げて苦笑したから、怒ってなくてよかったと思った。

これ以上機嫌損ねられたらっていうか、これ以上空気悪くなったら次から会えんくなる。
それは俺の勝手な都合の話。
ナリには悪いけど、実際の話、コイツに元気もらってんのは俺だけの話じゃない。

確かに一番最初はナリが気付いた。
でも、サラも、既婚者の悟も、俺も、コイツの笑顔や言葉に元気もらってんのは一緒。

最初からバンドのことをちゃんと考えてくれてて、確かに別れの危機もあったかもしれん。
でも、そんなん全部ひっくるめて、コイツがこのバンドにとって重要な人物になってるんは確かな話。

ナリもそれはわかってるはず。
ナリだってそうやからわってるはずやけど、独占欲が強いから素直に受け入れられへんだけ。

その事をナリはコイツに話そうとせぇへんし、コイツもお鈍(にぶ)ちゃんやから全然気付かへん。
だから、こうやって変な考えは浮かぶし、誤解も嫉妬も生まれるねん。

全ての原因は全部わかってるのに言わんナリが悪いんや。
絶対そう。

溜息吐いて、もう一度コイツを見据える。

「さっきも言うたけど、俺に気を遣うな。それにお前も。俺相手に気遣うことない。俺は好きでお前を呼んで、こうやってお前の頼みも聞いてる。それが俺の休日の使い方や。バンドの話が聞きたかったら、なんぼでも答える。悟の話が聞きたかったら、わかる範囲で答える。ナリの事が心配ならそれだって答える。サラの話だって、本人から直接きくやろうけど、わかる範囲でなら話たる。だから俺相手に気遣うな」

ほんまは“まだ俺を芸能人扱いしてんのか”って怒りたいけど、泣きそうな顔を見たら、さすがに言えんかった。

別に泣かすつもりで言うたわけちゃうし、泣かれても困る。
それに、今日泣かれたら明日会いに来るナリに疑われたりしたら困るやろ?!

怒られるっていうか精神的にヤラれるんは俺や。
俺にとばっちりが来るんや、それをわかっていただきたい。