「早急に話しつけてこい」

俺がスタジオに入って早々、京平はナリを押し出して涼を入れる間もなく外に追い出した。
何を話しつけるんかは俺にはわからんけど、数分後には元に戻ってくるんやろう。

溜息吐いて残ってた缶コーヒーを飲み干す。
隣に来た悟は地べたに座って苦笑する。

「涼介も大変な役割についちゃったね」
「はっ、そんなん今更や」

こうなるのが目的で今のポジション手に入れたんやから覚悟の上や。
こんなもんまだ序の口やし。
そう思ってると「涼ちゃんも罪な女だよね」と笑った。

「なに、どういう意味?」

そう言うと悟は驚いたように目を丸くした。
そして、またお得意の笑顔で「涼介がわかるわけないかー」と笑う。
馬鹿にされたようで「なんやねん?」と聞くと、はぐらかされた。

「ほんとにナリが怒ってる理由がわからない?」

その言葉に俺は怪訝な顔をする。
理由もクソもあらへん。
二人の痴話喧嘩の理由なんか俺が知るはずないやろう。
わかってたまるかって話。

それでも悟は笑ったままで、「あとでわかると思うから今は言わないでおくよ」とサラの元へ移動した。
意味のわからん俺は空き缶をゴミ箱に投げ入れて、悟の言葉を考える。

ナリの機嫌の悪さなんかわかるわけない。
自分が関わってるならまだしも、全く関係ないのに理由わかるかって言われたってわかるわけがない。
そうしてグルグル考えてると二人が戻ってきた。

入ってきた瞬間に“解決したな”ってわかった。
だから、ナリがマイクの前に立って、涼がサラの隣に座ったのを合図にリハは再開された。

“激変”と言うてもええくらいナリは絶好調で特に変更するとこも失敗もなく、いつもどおりの時間からちょっと押したけど、無事終わった。

無事に終わったリハのあと片付けをしてると急に肩に手を置かれて見上げると「ちょっと」とナリが外を指差していた。

嫌な予感っていうのは感じるときほど当たるもんで、廊下に呼び出された俺は壁にもたれた態度のデカすぎるナリの言葉を待つことなく「なんや?」と言いたい事を聞き出した。
どうせ「涼に何してんの?」とか言われるんやろうし。
...聞き飽きたっちゅーの。

「...昨日」

ちょっと間があったから外を眺めてたら急に話しかけられてびびった。

「昨日、涼に会っただろ」

何を言い出すかと思ったら、そんなこと。
びびった時に上がった心拍数を落ち着かせるために大きく息を吐いた。

「会うたよ。こないだ帰省したときに忘れたモンを届けに来てくれただけやけど」

だんだん眉間にシワを寄せてくとこを見たら、だんだんわかってきた。
どうやらそれが喧嘩の原因か。

深い溜息を吐いて、腕組をする。
まさかこれで喧嘩してるとは。

こんなん帰省した時はしょっちゅうやから、そこまで深く考えてなかった。
・・・原因は俺かい。

「俺の家って駅から近いし、行くって言うたけど、持って行くって言うてくれたからそれに甘えただけや。それ以外は見てのとおり何もない」
「何もなくて当然だろ」