朝方、僕は夢を見た。

僕がまだ2年生だった頃の春に過ごした、お父さんとの時間が夢の中でリフレインしていた。

お父さんが単身赴任で東京へ行くことになったと知ったのは、僕が2年生を迎える春、お父さんが東京へ行く約2ヶ月前のこと。

お父さんが東京へ行くと決まってから、お父さんが東京へ経つ前日まで、ほぼ毎日のように僕とお父さんは一緒にお風呂に入り、お父さんが僕の背中を、僕がお父さんの背中を流し、そんな時間が一時の間の日常となっていた。

僕もお父さんも、二人で入る “ お風呂の時間 ” を大事にしていた。そして、その時にお父さんが僕に話してくれたことを思い出していた。

『父さんと将太が一緒にお風呂に入っている時間は、男と男の大事な時間だ。お風呂で話すことは、将太を子供としてじゃなく、一人の男の人間として話す大事な時間だからな。』って。

一人の男として話すお父さんの言葉ひとつ一つは、普段TVを見て笑いながら過ごす家族の団欒とか、一緒にご飯を食べている時の、おかずの取り合いをしている時とか、ほんの時々一緒にカケッコやキャッチボールをしてくれる遊びの時間とは全く違った、特別な時間に感じられた。

夢に出てきたのは、そんなお風呂で過ごしたある日の会話だった。

「ごめんな将太。お父さん、運動会見に行ってやれなくて。」
「うん。大丈夫だよ。お母さんが来てくれるから。それに、東京で一人で淋しいのはお父さんの方だし、僕、運動会頑張って、賞状とかメダルとか沢山もらって、それをお父さんの誕生日プレゼントにして、お父さんのコレクション、僕が増やしてあげるよ。」
「それは、嬉しいな。楽しみにしてるよ。」

僕のお父さんは、若い頃スポーツ選手で、陸上をやっていて、ハードルとか高飛びとか、短距離走とかの賞状やメダルやトロフィーを沢山持っていて、今でも部屋にズラリと並んでいる。

お父さんの一番の宝物だという。