気が付くと、わたしは壱里のもとまで来ていた。


「……壱里…壱里」


わたしは何度も壱里を呼んだ。


でもそこには、いつものような笑顔もなけりゃ

返事すらない。


わたしはただ、少しずつ温もりを失っていく壱里を

じっと見ていた。



涙なんて、零れなかったはずなのに

頬が濡れた。


「雨…」


周りの悲鳴や怒声が

次第に強くなる雨音に消されていった。


雨は、血にまみれた壱里の顔を、綺麗に洗った。






「わたしの代わりに…泣いてくれてるの?」




わたしは、泣くように雨を降らす空に語り掛けた。



グレーの空は

まるで返事をしているように


雨の強さを増した。





「……ありがとう…」






いつのまにか

わたしの頬を、雨とは違う
熱い雫が濡らしていた。