どうして今もそんなふうに悩んでるの、なんて。

口に出すだけ無駄だ。──わたしのために悩んでくれているに、決まってる。



「夕くんは、ひのちゃんのこと好きでいてくれるけど。

……ただ無条件でずっと好きでいてくれる人なんていないのよ。つらいことに」



晩ご飯を作り終えたのか、手を洗ったお母さんがタオルで水気を拭き取ってわたしの元へと歩み寄ってくる。

そっとわたしの頬を包む手が冷たくて、ぎゃくにそれが心地よかった。



「夕くんだけだって決めたなら……

夕くんにも、たくさん伝えてあげて」



自分のために、と。

優しく告げるお母さんにこくこくとうなずくと、ゆっくりと手が離れる。頭の隅でカチャリと玄関の鍵が開く音を認知して、「出迎えてくるね」とリビングを出た。



「お父さんおかえりなさい」



ただわたしだけ好いてもらおうだなんて、そんなおこがましい考え方は持ってない。

もらった分だけ返すのは当たり前。──愛情には、それ以上の愛情を。




「おねーちゃんっ」



「わ、びっくりした。

どうしたの?かのちゃん」



ご飯を終えて、お風呂を終えてから部屋にもどったところで、わたしの部屋に訪れたかのちゃん。

ベッドに腰掛けてタオルで髪を拭いているわたしの膝に甘えるように擦り寄ってくる妹が唐突に抱きついてくる。



「ふふふー。最近おねーちゃん全然構ってくれないんだもん。昨日は夕ちゃん来てたし」



「ああ……でも、かのちゃん勉強は?

受験しなきゃいけないんでしょう?」



「うっ……お、おねーちゃん勉強教えて」



へるぷ……、と頭を抱える彼女に、くすりと笑って。

髪を乾かしたらね、と約束したらすぐさま部屋に勉強道具を取りに戻るかのちゃん。先に勉強をはじめるのを見て髪を乾かし、終えてからわたしも課題を開く。