ほかにも、同じ施設で暮らしてたヤツは何人もいる。

なのに、俺を引き取ってくれたことも。暴走族、なんてらしくねえもんに手を出してる俺のことを、今も本物の両親みたいに育ててくれてることには感謝してる。



……だけど。

それでも昔、俺すらも知らないうちに抱えていた孤独が、どこからともなく顔を出す。



「今日、なんか情緒不安定なんだよねえ」



しっかりと跡が残るほどに、ずれないようキツく巻かれた腕時計。

それのベルトをゆるめて時計を外せば、その下にちょうど隠れるのは細い傷跡がいくつか。



「……ここにまた傷つけんのも悪くねえかなって思ったけど。

カッターナイフ、カチカチやってたらひののこと思い出してさ。……ダメ元で連絡しようかなって」



「わたしが来なかったら切るつもりだったの?」



ひのには、俺が施設育ちだってことを昔姫だった頃に伝えた。

手首に残る傷もそのときに見せたし、あの頃に比べたらかなり傷跡は薄くなった方だ。




施設にいた頃、いろんなことが息苦しかった俺にとって。

血が流れているのを見ることで"生きてる"って実感するためにやっていたことだっていう話も、したけど。



「……さあ。

切ってたかもしんねえけど、結果としてひのは俺んとこ来てくれたじゃん」



ジーンズの後ろポケットに入れていたカッターナイフ。

それを取り出したら、ひのに「じゃあいらないわね」と取り上げられた。代わりに押し付けられたのは、ひのが来た時から持っていた白い袋。



中を覗けば白いパックと炭酸のジュース。パックを見ただけで中身はわからないけれど、食欲をそそる香ばしい匂いに容易に想像がついた。

袋からパックを取り出している最中に、空いたスペースに腰掛けたひの。並んで腰掛けたひのの髪から、ふわりと甘い匂いがする。



「なんでたこ焼き?」



「わたしの地元にある神社で、今日お祭りやってるの。

ふらっと見に行ったときにみやから電話かかってきたから、一緒に食べようと思って屋台で買ってきたんだけど、」



もしかして嫌いだった?と首をかしげるひの。

……たこ焼き嫌いって、あんまり聞いたことないな。小さいときは俺もタコ嫌いだったけど。