意識を手放したあたしは冷たい水をかけられて目を覚ました。


目を覚ますと同時に背中の痛みが戻ってきて、あたしは顔をしかめた。


傷口をお湯で濡らした痛みから、今はしみるような痛みに変わっている。


不意にボンドの匂いが鼻を刺激し、あたしはハッと顔を上げた。


「おはよう。綺麗にくっついたよ」


陽介君がそう言い、満足そうにほほ笑んだ。


くっついたって……。


あたしは図鑑のハグロトンボを思い出していた。


そっと背中に手を伸ばすが、ただれた皮膚に触れるばかりで蝶よりも細く、小さな羽に触れることはできなかった。


「ほら、見てごらん」


陽介君はそう言うと、蝶の羽の時と同じようにあたしの前後に鏡を用意した。


合わせ鏡の奥にあたしの背中が見えた。


皮膚にボンドがついているのか、皮膚自体がただれているのかもわからない。


無理矢理引きはがそうとしたせいであちこちから血が滲み、ミミズバレになっている箇所もあった。


しみている場所は傷口の上から新たにボンドをぬられた場所だった。


あたしはその場に力なく座り込んでしまった。


脱力し、頭の中は真っ白だ。


「とても綺麗だ。お前もそう思うだろ?」


陽介君はうっとりとした口調でそう言い、ハグロトンボの羽を撫でた。


羽が少し動かされるだけでもあたしの皮膚には激しい痛みが走り、あたしはただその場で耐えていることしかできなかったのだった。