「それ……なに?」


恐る恐るあたしはそう聞いた。


「なにって、トンボを知らないのか?」


陽介君が呆れたようにそう聞いてくる。


「トンボは知ってるけど……」


「ハグロトンボ。綺麗な羽だろ?」


陽介君はそう言い、目を輝かせて図鑑を見た。


確かにそのトンボは他のトンボと違った魅力があった。


川の近くを飛んでいたらつい目がいってしまうような、綺麗なトンボだ。


「モンシロチョウの羽はボロボロになったから、次を考えないといけないだろ」


当然のようにそう言う陽介君に、あたしはサッと青ざめた。


「次って……?」


そう聞く声が震える。


聞かなくても、もう答えはわかっていた。


「次の羽に決まってんだろ」


陽介君はそう言うと、あたしの背中についている羽を引っ張った。


皮膚が強く引っ張られて思わず顔をしかめる。


「痛い!! やめて!!」


「すぐに取れるって」


陽介君は手の力を緩める事なく、無理やり羽を千切ろうとしている。