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この日、起きてからご飯を食べる時以外、陽介君はずっと図鑑を見て難しい顔をしていた。


図鑑を見ている時間が長ければ長いほどあたしは嬉しいのだけれど、何もない平穏な時間が続くとそれもまた不安になった。


次はどんな事をされるのか。


そんな恐怖がどんどん膨れ上がって行く。


あたしはティッシュの上でまるくなって、キツク目を閉じていた。


夜あまり眠れていないけれど、全然眠くならない。


陽介君がすぐ近くにいるという威圧感が、あたしの睡眠を妨害していた。


今や見えない主従関係があたしと陽介君の間に存在していることは、明らかだった。


ニュース番組などで時折見かける誘拐事件。


出口はあったのにそこから逃げる事ができない被害者たち。


その気持ちが今のあたしには痛いほどに理解できた。


見えない鎖で心を繋がれ、生きるために従しかない。


誘拐された被害者の人権など、犯人はいとも簡単に踏みつぶす。


恐怖で洗脳し、すべてを奪い、被害者のその後の生活にまで多大な影響を及ぼす。


生きてここを出ても、生きていけるかどうかもわからない。


そんな、地獄のような環境だった。