それからあたしは放心状態のまま朝を迎えた。


ミィの爪が引っかけられた羽には大きな穴が開いている。


だけど、ミィはあたしを助けてくれたのだ。


ミィは最初から攻撃する気などなく、あたしを助けるために来てくれた。


単に自分の都合がいいように解釈しているだけかもしれないけれど、今のあたしにはそう感じられるできごとだった。


「なんだよ、羽がボロボロじゃないか」


そんな声が聞こえてきて、あたしはハッと息を飲んで陽介君を見上げた。


陽介君はボロボロになった蝶の羽を見て明らかに不機嫌そうだ。


「まさか、逃げようとしたんじゃないだろうな?」


グッと顔を近づけてそう聞いてくる。


「そ、そんなことしない!」


あたしは左右に首を振ってそう言った。


しかし雄介君は疑いの目を向けている。


「まぁいいか。蝶の羽はありきたりすぎたと思っていた所なんだ」


陽介君はそう言うと、ベッドに戻って虫図鑑を広げた。


その様子にホッと胸をなで下ろした。


陽介君は図鑑を開くと1時間くらいはその場から動かない。


2人でいる時間は呼吸をすることも苦しいけれど、この時間だけは安心していられた。