猫に日本語で話しかけるなんて無駄なことかもしれなかった。


だけど今はこの黒猫があたしを助けるための救世主に見えた。


ミィは時々舌なめずりをしながらあたしを見る。


下手をすればミィに食べられてしまうかもしれない。


口元の牙を見ているとそんな恐怖心が湧いてくる。


「ねぇ、ミィ。お願い。あたしを助けて」


ゾクゾクと背中を這い上がってくるような恐怖の中、あたしは真っ直ぐ黒猫の目を見てそう訴えた。


ミィは瓶の前で一旦体勢を低くし、眠たそうに大きな欠伸をした。


猫はマイペースな生き物だ。


自分が眠たければ周囲がどうであれ眠る事を優先するだろう。


ダメか……。


あたしはそう思い、その場に座り込んだ。


その時だった。


眠るのかと思っていたミィが体を起こし、瓶を口にくわえたのだ。


咄嗟のことで体がグラリと揺れる。


あたしは必死にティッシュにしがみ付いた。


ミィはあたしが入った瓶を口にくわえたまま、身軽に机から飛び降りた。


その衝撃が体に走り、顔をしかめる。