猫は血の匂いに気がついたのか、瓶の上部を前足でつつき始めた。


瓶がグラリと揺れる。


あたしは咄嗟にひかれているティシュに身をくるんだ。


猫は瓶をおもちゃのように扱い、片手でパンチを繰り返す。


その度に瓶は大きく揺れて床に落ちてしまいそうになる。


「やめて!」


あたしは思わずそう叫んでいた。


猫が声に反応して耳をピクピクと動かすのが見えた。


「お願い、やめて!」


もう一度そう言うと、猫は瓶の側面にグッと顔を近づけて来た。


歪んだ大きな目があたしを見ているのがわかった。


元々瓶を床に落とす事を目的にしていたけれど、猫の力が加わると落下の衝撃が強くなってしまうかもしれない。


だから、それだけは避けたかった。


猫は瓶の中のあたしをみて「にゃぁ」と、一声鳴いた。


近づいてきた猫には赤い首輪がしてあり、そこには『mii』と、書かれていた。


「ミィ……あなたの名前ね」


そう言うと、黒猫は不思議そうに首を傾げてあたしを見た。


まるで『なんで自分の名前を知っているんだ』と、言われている気分になる。


「ねぇミィ。1人でドアを開けられるあなたはきっと賢い猫なのね? あたし、ミィにお願いがあるの。この瓶を床におろしてほしいの」