陽介君はこげ茶色の門を開けて玄関へと向かった。


一旦その前で立ちどまり、チャイムを鳴らす。


しかし中から誰かが出て来る気配はなかった。


「陽介君の家は共働き?」


「いや。母親は専業主婦だよ。今は出かけてるか、もしかしたら近くの小学校に避難してるのかもしれないな」


そう言いながら、鞄から鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。


玄関のドアも白いアンティーク調で可愛らしい。


お母さんの趣味なのかもしれない。


「お母さんに電話してみたら?」


「帰って来る途中で電話してみたんだけど、どこにも繋がらないんだ」


「そうなんだ……」


きっと地震の影響なのだろう。


これから停電や断水が起こるかもしれない。


特に大きく揺れた地域では、しばらくは不自由な生活になるだろう。


陽介君の家の中は外観と同じで可愛らしい、アンティークなものに囲まれていた。


「まるでおとぎ話の世界に紛れ込んだみたい」


ポケットの中から見る景色に見とれてそう言うと、陽介君が「そんな事恥ずかしげもなく言うなよ」

と、呆れたように言った。