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あたしが先頭に立って玄関を開けると、陽介君のお母さんは驚いた顔であたしを見た。


しかし、詳しい事情を説明している暇なんてなかった。


「ミィを迎えにきました」


「え? ミィ?」


青い顔をした陽介君のお母さんは家の中へ視線を向ける。


「ミィは陽介君に尻尾を切断されたんです。知ってましたか?」


そう聞くと、陽介君のお母さんは青い顔をしたまま左右に首をふった。


呆然自失という状態なのか、しっかり受け答えをしているようでその目はフラフラと泳いでいた。


「ミィと約束したんです。あたしがこの家から出たらきっと助けにくるって」


「そう……そうだったのね」


陽介君のお母さんは呟くようにそう言うと、リビングへと歩いて行った。


そのドアを開けると、弾かれたように黒猫のミィが出て来た。


まっすぐこちらへ向かって走って来る。


ミィはそのままジャンプしてあたしの体にしがみついてきた。


「ミィ!!」


あたしは両手を広げてミィを抱きしめた。


フカフカの毛並に顔をうずめる。


この子があたしを助けてくれたんだ。


あたしの、命の恩人だ。


「ミィ、もう大丈夫だからね」


あたしがそう言うと、ミィは大きな目であたしを見つめて「ニャァ」と、一声鳴いたのだった。