「百合花……?」


お母さんが小刻みに震えながらあたしに声をかけて来た。


「お母さん……」


「百合花、まさか本当にこんなことになってたなんて!」


和が混乱しながらも虫かごの蓋を開けてくれた。


ケースの中に充満していた糞尿の匂いが緩和されて、あたしは息を吸い込んだ。


「なんて、ひどい……」


お母さんに目に涙が浮かび、そのまま崩れるように座り込んでしまった。


「嘘でしょ? この子が百合花ちゃん?」


陽介君のお母さんは視線を泳がせてそう言う。


「陽介から百合花ちゃんってクラスメートの事は聞いていたのよ。あの地震があった日から仲良くなったって。でも、こんなところにいるなんて……」


そう言っている最中にふらつき、陽介君のベッドに座り込んでしまった。


小さくなった少女を自分の息子が監禁していたという事実に、何も考えられなくなったようだ。


「百合花、大丈夫か?」


和がケースの中に手を差し出した。


「和、あたし体汚いよ?」


お風呂に入れていないだけでなく、糞尿の処理だってさせてもらえていなかった。


「そんなの気にならない。早く外へ出て来いよ」


和の言葉に頷いて、あたしは手のひらに乗った。


いつも繋いでいた手に乗っているという感覚はとても不思議だったけれど、陽介君の手よりもずっと安心できた。