ケースの中を更に3周歩いた時、ドアが開く音が聞こえてあたしは動きを止めた。


そして入ってきた黒猫にあたしはすぐ目を輝かせた。


「ミィ!!」


あたしが呼ぶと、ミィは躊躇することなく机の上に飛び乗って来た。


「最近来なかったけど、どうかしたの?」


そう聞くと、ミィは「ニャァ」と一声鳴いて大きな目をこちらへ向けた。


「ごめんね、ミィが外へ連れ出してくれたのに、あたし失敗しちゃった」


「ニュア」


「また逆戻りしちゃって、しかも今度はこんな姿にされちゃった……」


「ニャァ」


知ってか知らずか、ミィはいいタイミングで鳴く。


本当に会話しているような気持ちになって、嬉しくなる。


陽介君以外の誰かと会話をするのは久しぶりだ。


ミィは時折天井に鼻を近づけてケースの中の匂いを嗅いだ。


あたしの匂いを覚えてくれているだろうか?


最近はずっと体を洗えていないから、匂いが変わっているかもしれない。


「ねぇ、ミィ。もう一度前みたいに助けてくれないかな?」


そう言うと、ミィは何かを感じ取ったようにケースから離れた。


悲しそうな目であたしを見ている。


「ミィ?」


首を傾げて名前を呼ぶと、ミィはあたしに背を向けた。


その瞬間、ハッと息を飲む。