どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。


焦って机の上をぐるぐると歩き回っても、もう逃げる事だってできなかった。


いや、冷静に考えればまだ逃げ道があるかもしれない。


だけど冷静に考えるほどの余裕がないのだ。


どうしようもなくて机の上にうずくまった時、部屋のドアが開いた。


ハッとして顔を上げる。


そこには夕飯を手に持った陽介君が立っていた。


その表情は明らかに不機嫌そうであたしは呼吸ができなくなって胸が苦しくなった。


あんなに不機嫌な陽介君を今まで見たことがなかった。


陽介君はあたしに顔を近づけると「なんで逃げようとしたんだ?」と、聞いて来た。


その質問にあたしは喉に言葉が張り付いて出て来なくなってしまった。


恐怖が体をすくませる。


陽介君の視線から逃れる事もできないまま、ゴクリと唾を飲み込んだ。


喉はカラカラに乾いていて、思わずむせこんだ。


「なぁ? こんなに熱が出てまで、なんで逃げたんだよ」


陽介君はそう言うと、あたしの額に指先を当てた。


もう、自分に熱があるのかどうかもわからない感覚だった。


目の前がグラグラと歪んで見えるのは、熱のせいなのか精神的な恐怖からなのか、判断がつかない。